大津地方裁判所 平成2年(行ウ)2号 判決
原告
甲野花子(仮名)(X1)
同
乙川太郎(仮名)(X2)
右両名訴訟代理人弁護士
折田泰宏
同
中村広明
被告
八日市市長 望田宇三郎
同
八日市市(Y)
右代表者市長
望田宇三郎
右両名訴訟代理人弁護士
宮川清
事実及び理由
一 争点1について
1 原告らは、道路法に定める道路を開設するためには、道路敷地につき所有権その他の権限を取得した上で、供用開始の手続に及ぶことが必要であるところ、原告らが各六分の一ずつの共有持分権を有する三九番三の土地の一部である本件係争地については、被告八日市市が原告らから所有権その他何らの権限をも取得していないにもかかわらず、被告八日市市長は、本件係争地を野口四号線の道路敷地としたまま、本件市道につき本件処分をしたのであって、このような重大明白な瑕疵がある本件処分は無効であるとして、本件処分の無効確認を求めている。
2 行政処分の無効確認の訴えは、「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り、提起することができる」(行政事件訴訟法第三六条)とされており、同条の要件を満たすことが前提となるから、以下検討することとする。
3 道路法に基づく供用開始処分は、道路管理者が道路を一般交通の用に供することを開始する旨の意思表示を中核とし、公物としての道路を成立させる行政処分である。右行政処分により、以後道路として一般交通の用に供され、道路法の規定が全面的に適用されることとなる。すなわち、市町村道においては、その路線の存する市町村が管理にあたり、道路敷地に所有権等の私権を有する者は、その行使が制限される。また、道路敷地に所有権等の私権を有する者といえども道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞れのある工作物、物件又は施設等を設け、継続して道路を使用しようとする場合には、道路管理者である市町村の許可を受けなければならない。
このように道路供用開始処分は、私権制限を伴う等敷地の所有者等の権利義務に直接影響を与える行政処分であるが、右所有者等に対して、その後右処分に続く処分が予定されているわけではない。
したがって、本件市道の敷地の一部である三九番三の土地について供用持分権を有する原告らは、「当該処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者」とは言えないが、「当該処分の無効の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」に該当すると言える。
4 次に、「当該処分の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないもの」に該当するか否かについて検討するに、その意味するところは、処分に基づいて生ずる法律関係に関し、処分の無効を前提とする当事者訴訟または民事訴訟によっては、本来、その処分のため被っている不利益を排除することができないことをいうと解されるところ、原告らが、現に、本件において、被告八日市市に対して、共有持分権に基づいて、本件係争地の明渡を請求しているところからしても明らかなように、本件処分の無効を前提として、本件係争地の共有持分権に基づいて、共有持分権確認請求、明渡請求等現在の法律関係に関する訴えを提起することによって目的を達することができると認められる。
したがって、本件処分の無効確認請求は、「当該処分の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないもの」には該当しない。
5 なお、当該処分の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないか否かは、法律上、処分の無効を前提とする当事者訴訟または民事訴訟の形態をとることができるかどうかだけが問題となるにとどまり、そのような訴えの提起が法律上可能である以上、具体的に勝訴の見込みがないかどうかは関係がない(最高裁昭和四五年一一月六日第二小法廷判決・民集二四巻第一二号一七二一頁参照)から、本件における被告八日市市に対する明渡請求が後記のとおり棄却すべきものとしても、本件処分の無効確認が「当該処分の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないもの」に該当しないという結論には変わりはない。
6 以上より、本件処分の無効確認の訴えは不適法である。
二 争点2について
1 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件市道は、野口町住民の強い要望に基づき、昭和五一年度の滋賀県同和地区公共事業の補助対象事業として、同年一〇月一六日に着工、同五三年三月三〇日一部を除いて完成した延長一九七メートル、幅員五メートルの砂利道路であり、その後、昭和五三年度の国の地方改善施設整備補助事業により、アスファルト舗装され、以後現在まで市道として使用されている。
(二) 原告乙川太郎は、昭和五一年秋頃、工事着工前に、本件市道予定地に杭が打たれた上で、現地で立会っており、この時、本件市道予定地が本件係争地を含んでいるということを認識していた。しかし、原告乙川太郎は、昭和五三年五月ころまで、本件係争地の状況について関心がなく、原告甲野花子から本件市道の敷地として使用されている旨聞かされて初めて、被告八日市市に対して事情を質しに行った。
(三) 本件係争地は、本件市道の南西端部の県道への進入部分に位置しており、しかも、本件市道の進入口を三・二九八メートル遮るような形状をしていることからして、本件市道の使用上重要である。
(四) 本件係争地は、面積にしてわずか三〇・〇六平方メートルにすぎず、三九番三の土地全体の約一五分の一である。しかも、原告らが現在、本件係争地の除いた三九番三の土地を使用、収益していると認めるに足る証拠はなく(原告乙川太郎は、京都市内に住所を有していることからすると、使用していないと推認される)、仮に原告らが使用、収益しているとしても、それは田としての使用されているにすぎないことからすれば、少なくとも現時点においては、本件係争地の明渡を受けても耕作面積が若干増えるという利益を得るだけである。
また、本件係争地の価格は、約三〇万円(平米単価約一万円)であり、原告らの共有持分権に相当する額は、約五万円に過ぎず、その処分が困難になることにより被る不利益も僅かである。
(五) 丙一郎は、平成二年八月二七日贈与を原因として、同年九月一〇日、丁山花代、戊森次郎の三九番三の土地についての共有持分権移転登記を、同月一四日、戊森三郎の三九番三の土地についての共有持分権移転登記を、それぞれ受け、現在、同土地につき、六分の四の共有持分権の登記名義人である。
(六) 原告らは、本件係争地が本件市道の敷地として利用されること自体に異論がある訳ではなく、丙一郎のみを交渉相手とし、原告らを無視して手続を進めたことに不満があるに過ぎない。
2 以上を総合すると、本件係争地の使用、収益、処分を妨げられていることにより被る原告らの不利益が僅かであると考えられることに比し、本件係争地が本件市道の一部として使用できなくなることにより生じる一般交通の便に対する支障が大きいから、原告らが、本件係争地の共有持分権に基づき明渡請求することは権利の濫用であって許されない。
(裁判長裁判官 河田貢 裁判官 本多知成 片山憲一)